る。そして私は、出来うれば、敗戦後の日本の運命と次郎の運命とがどう結びつくかを書き終るまでは、この物語に別れを告げたくない、と思っている。しかし、それまでには、なお数巻の記述を必要とするであろう。悲しいことには、私は世間の物笑いになるほどの遅筆である。しかも、今年の十月には私は私の六十六歳の誕辰を迎えようとしている。たとい健康にある程度の自信があるとしても、私は急がなければならないという気がしてならない。まして、第三次世界大戦の危機がわれわれの頭上をおびやかしていることを思うと、一切をなげうって、この仕事に没頭すべきではないか、とさえ思うのである。これは誇張でも何でもない。第四部を書き終えた時の私の実感なのである。
しかし、今はただ出来るだけ少い煩累の中で出来るだけ多くの記述をすすめうることを神に祈りつつ、最善の努力を試みるより外はない。なぜなら、私もまた次郎と共に運命と愛との葛藤の中に生きる人間の一人なのだから。
[#地から2字上げ]一九四九・三・一九
底本:「下村湖人全集 第二巻」池田書店
1965(昭和40)年7月30日発行
※「黒+犬」は、「默」で入力しました。
※誤植が疑われる箇所を、「次郎物語 (中)」新潮文庫、新潮社、1987(昭和62)年5月30日発行、1994(平成6)年6月10日4刷を参照してあらためました。
入力:tatsuki
校正:松永正敏
2006年1月31日作成
青空文庫作成ファイル:
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