日の会議で、多分そうきまるだろう。――
 と、いうのである。
 この噂が、それほど筋のとおったものになるのには、むろんそれ相当の理由があった。それは馬田一派の活躍であった。彼ら、とりわけ馬田自身は、次郎を事件の犠牲者にして英雄に仕立てあげるよりも、女の問題で彼に汚名をきせることに、より多くの興味をもっていたし、また、このごろ曾根少佐の家に出入することによって、信ずべき情報の提供者として有利な地位を占めていたのである。
 次郎は、この日も、あたりまえに学校に出ていた。しかし、そうした噂は、いつも彼の耳から遠いところで語られていた。また、彼自身それに近づいて行こうともしなかった。彼はへ休み時間になると、ひとりで校庭をぶらつきながら、いかにも感慨深そうに、あちらこちらを見まわしているだけだった。
 誰よりもこの噂で気をくさらしたのは、新賀と梅本だった。二人は最初のうちそれを一笑に附《ふ》していたが、生徒たちのどのかたまりででも同じようなことが語られているのを聞くと、とうとうたまりかねて、次郎を人けのない倉庫のうらに誘いこみ、半《なか》ば詰問するように、女の問題について彼自身の説明を求めた。
 次郎はさびしく微笑して、しばらく二人の顔を見つめると、かなり烈しい調子で言った。
「僕はどうせ退学さ。それはもうきまうている。昨日の曾根少佐との問題があるからね。僕自身でも、もうこの学校には未練がないんだから、甘んじて処分はうけるよ。しかし、不都合の行為あり退学を命ず、というような掲示が出た時に、それを女の問題だと思われたんじゃ、僕も残念だよ。だから、これだけは、はっきり君らに事情を話して置きたい。実は、これまで誰にも話すまいと思っていたんだが、そんな宣伝をする奴は馬田にちがいないと思うから、馬田のためにも言って置く必要があるんだ。――」
 そう言って彼は、彼がこれまで道江のために馬田に対してとった態度をかくさず説明した。彼は、しかし、説明しているうちに、心の奥に何か知ら暗い影がさすような気がして、自分ながら自分の言葉の調子がみだれるのをどうすることも出来なかった。彼はその影をはらいのけるように、最後に調子を強めて言った。
「僕には何もやましいことはない。僕は僕の信やることをやったまでだ。それがいけないというんなら、もう仕方がないさ。しかし、君らだけには信じてもらいたいね。」
 梅本
前へ 次へ
全184ページ中172ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング