題をひとりで考えてみたかったし、そうでなくても、恭一と道江をまえに置いては、彼の考えは、とかくみだれがちになりそうだったのである。
 竹林の中に腰をおろした彼は、うずくまるように首をたれて考えこんだ。もう日は暮れかかっており、やぶ蚊がしきりに襲って来た。彼は、しかし、それを平手でうつだけで、立ち上ろうとはしなかった。指なしの権、饅頭虎、曾根少佐、西山教頭、馬田、そうした人たちの顔がつぎつぎに彼の考えの中を往復した。そのうち、ふと、ひとりの毒々しい女の顔が浮かんで来た。それは春月亭の内儀の顔だった。と、その瞬間、ふしぎにも、彼の心にさっと明るい光が流れこんだ。それは、春月亭の問題のあとで、朝倉先生をたずね、ミケランゼロの話を聞かされたことを思い出したからだった。
「この石の中には女神がとりこにされている。私はこれを救い出さなければならない。」
 そう言って、こけむした、きたない石の中から美しい女神の像を刻み出したミケランゼロの心を、父は自分に求めているのだ。父と朝倉先生とは、どうしてこうも人生に対するものの考え方の根柢《こんてい》が一致しているのだろう。そして自分は、何といういい父をもち、何というすぐれた先生を恵まれたことだろう。
 彼は勢いよく立ちあがった。そして、竹林の密生した葉の間からもれる星の光を仰いだ。
「おうい、次郎君――。」
 大沢の愉快などら声が、そのとき池の向こうからきこえた。
「おうい。」
 と、次郎の答えも元気でほがらかだった。
「もうかえるぞうっ――」
「ようし、すぐ行く――」
 五人は間もなく家に帰ったが、次郎は、恭一と道江が暗くなった道を、おりおり並んで歩くのでさえ、今はさほど苦にならなかった。
 俊亮は、ちょうど朝倉先生あての手紙を書き終えて、お祖母さんが一人で涼んでいる座敷の縁《えん》に出たばかりのところだった。手紙は宛名を墨書して座敷の机の上にのせてあったが、それは俊亮の手紙にしてはめずらしく分厚なものだった。
 みんなはすぐ俊亮をとりかこんだ。しかし、誰も、さっきからの課題のことを言い出すものがなかった。それは、次郎の問題をお祖母さんにきかれてはまだ悪いだろう、と察したからであった。すると、次郎がだしぬけに、
「僕、朝倉先生にこんな話をきいたことがあるんです。」
 と前置して、ミケランゼロの話をし出した。そして、話し終ると、それにつ
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