うに言った。
「きょうは、さすがの先生も、よほど不愉快だったと見えて、最後まで気味のわるい眼付をしていられたよ。僕は、あんな眼付が先生にも出来るのかと思って、不思議な気がしたくらいだ。」
 次郎は、最後に見た朝倉先生の険しい眼を、もう一度はっきりと思いうかべた。そして、それが自分を非難する眼であるよりも、むしろ自分のことを心から心配してくれている眼だったということを知って、おどろきもし、うれしくも思う一方、強い愛情のしめ木にかけられる苦しさを覚えた。
 次郎の複雑な表情を注意ぶかく見つめていた恭一が言った。
「曾根少佐のうちではどうだったい?」
 次郎は、しばらく顔をふせて、考えこんでいるふうだったが、少し言いにくそうに、
「僕、とうとうけんかしちゃったんだ。」
「けんか?」
「まあ!」
 恭一と道江とが同時に叫んだ。次郎には、しかし、二人のおどろきが、なぜかうつろなものにきこえた。彼は、なぜということもなく、俊三の方に視線を転じたが、俊三は、むしろ好奇的な眼をして彼のつぎの言葉を待っているかのようだった。
「配属将校を相手にけんかなんかしたんじゃ、いよいようるさいね。」
 恭一が言うと、道江がすぐそのあとから、泣くような声で、
「次郎さん、だめね。あたし、きょう、朝倉先生がおたちになったってききましたから、次郎さんはどうしていらっしゃるのかと思って、おたずねしてみたのよ。すると恭一さんから、さっきの大沢さんのお話のようなことをきかしていただいたんでしょう。あたし、それだけでも、もう心配で心配でたまらなかったんですのに。……配属将校って、普通の先生よりよっぽどきびしいっていうんじゃありません?」
 次郎は、道江のそんな言草に真実性がないとは思わなかった。しかし、恭一と組みになって自分に話しかけて来るような彼女の態度が、彼の気持をかきみだした。また、彼女が駅での出来事を恭一にきいたと言ったのも、変に彼の耳を刺戟した。
 彼は道江の顔をちょっとのぞいたきり、すぐ恭一に向かって抗議するように言った。
「配属将校だから、僕、よけい默って居れなかったんだよ。」
「しかし、今の場合、少し無茶だったね。」
「そうよ、次郎さんはいつも気みじかすぎるわよ。」
 また道江が口をはさんだ。次郎は何かかっとするものを胸の中に感じながら、むっつりしていた。すると、大沢が微笑しながら言った。

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