が。」
「はあ、実は、これから下級生も少しずつ加えていただきたいと思って、つれて来たんです。」
 大沢が、持っていた本を棚にかえし、自分の席にもどりながら答えた。
 次郎と新賀とは、さっきからお辞儀をする機会を待って、もじもじしていたが、先生は、
「うむ、そうか。」
 と、まだ立ったままで、羽織の紐をかけていた。
「こちらが新賀君、むこうは僕の弟です。」
 恭一が先生の顔を下からのぞきながら紹介した。
「ほう。」
 と、先生は、まだ二人の方を見ない。そして、やはり羽織の紐をいじくっていたが、やっとそれがかかったらしく、
「やあ、いらっしゃい。」
 と、自分の座蒲団に尻をおろし、はじめてみんなとお辞儀をかわした。
 次郎は、今日のことで、さっそく先生に何とか言葉をかけられるだろうと予期して、固くなって待っていた。しかし、先生は、ちょっと彼の顔を見て、
「おお、そうそう、君は本田の弟だったな。」
 と、言ったきり、すぐ新賀の方に話しかけた。新賀は例によって問われることをはきはきと答えた。
「ほう海軍か。そりゃいい。一年の時からちゃんと志望をきめて、まっしぐらに進むのはいいことだ。」
 先生
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