次郎は、むろん、新賀に言われなくとも話すつもりだった。で、さっそく、今日の一件が四人の話題に上ることになった。
 次郎と宝鏡先生との教室での活劇については、新賀が殆んど一人で話してしまった。しかし、小田先生に呼び出されてからあとの事は、次郎が自分で話すより仕方がなかった。新賀の憤慨した調子にひきかえて、次郎はいやに用心深く話した。そして、今度は小田先生に対する不満の言葉など出来るだけ洩《も》らさないようにつとめた。新賀はそれが物足りなかったらしく、何度も口をはさんで、小田先生のあいまいな態度を攻撃した。
 恭一は、話の最初から、ひどく心配そうに聞いていた。しかし、大沢の方は、次郎が机もろとも宝鏡先生にかかえ出されるあたりになると、手をたたいて喜んだ。そして、
「机にしがみついてはなれなかったのは大出来だよ。さすが次郎君だ。かかえ出されても、勝負にはたしかに勝っているね。」
 と、わざとおだてるようなことを言ったりした。そして、次郎が最後に、
「僕、どうしたらいいかわからないので、新賀君の考えをきいてたところです。」
 といくらかきまり悪そうに首をたれると、大沢は、
「ふうむ、なるほ
前へ 次へ
全243ページ中77ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング