はまだお話してないんだが、お話しても、たぶん、そうは思われないだろう。だから、学校としては、君の正しさを疑ってはいないんだ。君はそれを信じてもよい。」
 次郎は、心が躍るようだった。しかし、ついさっきまで自分を疑っていた小田先生が、朝倉先生のそんな言葉を默って聞いているのが不思議でならなかった。
「しかし、――」
 と、朝倉先生は、次郎の顔を注意ぶかく見まもりながら、
「人間の世の中には、誤解ということがある。これは、時と場合によって免れがたいことだ。君だって、これまでに、人を誤解したことが何度もあるだろう。」
 次郎の頭には、幼いころからの自分の生活が、一瞬、走馬燈のようにまわった。
「どうだね。」
 朝倉先生はやさしく返事をうながした。
「あります。」
 次郎は素直《すなお》に答えて、少しうなだれた。
「誤解された人は気の毒だ。だから、そういう人があったら、みんなでその人のために弁護をしてやらなければならん。これはあたりまえのことだ。」
 次郎は、小田先生の顔をそっとのぞいて見たいような気がしたが、視線はわずかに青い毛氈の上をはっただけだった。
「しかし、気の毒なのは、誤解された人
前へ 次へ
全243ページ中66ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング