に出て、事実をはっきりさせることが出来るんだと思うと、何か昂然たる気持にさえなった。彼は、いつの間にか、朝倉先生の前で、宝鏡先生を言い伏せている自分を想像して、一人で力んでいた。
(先生は自分から進んで、僕に話したいことがあると言われた。それは、きっと僕を信じていて下さるからだ。)
彼は、そんなふうに考えた。
だが、また一方では、変に怖いような気がしないでもなかった。室崎との事件のあとで、先生に「自分より強いと思っていたものに一度勝つと、そのあと善くなる人もあるが、かえって悪くなる人もある。」と言われたことが、ふと思い出された。彼は、あまり図に乗って喋《しゃべ》るようなことはすまい、と自分の心に言いきかせた。
弁当をすますと、彼は、はやるような、それでいて変に重たいような気持で廊下を歩いた。教員室の戸をあけると、炭火のガスでむっとする空気が、部屋中にこもっているのを顔に感じた。
彼は、その空気の中を小田先生の机のそばまで歩いて行った。
小田先生は、次郎を見ると、待っていたように立ち上って、彼を別室へつれこんだ。その室は、生徒監室のすぐ隣で、何か問題の起った時に、生徒を取調べた
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