でも三人の足にくらべるとさすがにのろかった。しかし、滝までは三十分とはかからなかった。滝は、老人がみちみち自慢したとおり、世に知られないわりには頗る豪壮[#「豪壮」は底本では「豪荘」]なもので、幅数間の、二尺ほどの深さの水が、十丈もあろうかと思われるほどの断崖を、あちらこちらに大しぶきをあげて落下していた。滝壺に虹があらわれ、岩角の氷柱がさまざまな色に光っていたのが、いよいよ眺めを荘厳にした。名を半田の滝というのだった。
寒さも忘れて三十分ほども滝を眺めたあと、三人が老人にわかれを告げると、老人は、懐《ふところ》からさっき書いたらしい手紙を出して、
「たいがいにして日田まで下るんじゃ。日田に行ったら、この宛名の人をたずねて行けばええ。中にくわしく書いておいたでな。」
と、それを大沢にわたした。大沢は、手紙を押しいただいたまま、いつものとおりには言葉がすらすらと出なかったらしく、何かしきりにどもっていた。手紙の宛名には日田町○○番地田添みつ子殿とあり、裏面には白野正時とあった。
三人は、それから、その日とその翌日とを、やはり無計画のまま、やたらに歩きまわった。その間に、竜門の滝とい
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