僕、行ってみましょうか。」
 次郎はもう路をおりかけた。
「よせ、よせ。」
 と、大沢は、いったんとめたが、
「そうだなあ、いよいよ家がこの近くに見つからなかったら、肥料|小舎《ごや》でも何でもいいから、そこに泊ることにしよう。……とにかく探検しておくんだ。」
 三人は畦《あぜ》道の枯草をふんで急いだ。行きつくまでには五分とはかからなかった。大沢の想像どおり、それは小舎だったが、真暗な三坪ほどの土間の半分には、藁がいっぱい屋根裏に届くほどつんであり、入口には戸も立てられるようになっていた。
「寝るぶんには、これだけ藁があれば十分だね。」
 と、大沢は、しばらく考えていたが、
「しかし、ひもじいだろう。僕、もう少し歩いて家を見つけるから、それまで藁の中にもぐって寝ていたまえ。」
 そう言って、彼は、さっさと一人で出て行ってしまった。
 彼の姿が見えなくなると、恭一と次郎とは、急に寒さを覚えた。
「僕、そこいらから枯枝を拾って来ようか。兄さん、マッチある?」
「ないよ。大沢君が一つ持ってるきりなんだ。」
「チェッ。」
 次郎は思わず舌打をした。
「マッチがあったって、こんなところで火を焚《
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