「考えてごらんになって?」
「まだ、あまり考えていません。」
「考えようにも、ちょっと、どう考えていいかわかりませんわね。白い鳥が芦の花の中にはいるって、ただそれだけなんですもの。禅の文句なんて、まるで謎《なぞ》みたいなものですわ。」
 次郎は、世間で、わけのわからぬ言葉を禅問答みたいだ、というのを、これまでよく聞いたことがあったが、こんなのが禅の言葉かな、と思った。
「だけど――」
 と、奥さんは、にっこりして、
「意味はわからなくても、いい気持のする文句でしょう?」
 次郎は、ふと、自分の生れ故郷の、あの沢辺の晴れた秋景色を想像した。そこには芦が密生していて、銀色の穂波がまばゆいように陽に光っている。一羽の真白な鳥が、ふわりと青空を舞いおりて、その穂波に姿をかくした光景は、何ともいえない美しさだった。
「どう? 次郎さんは何とも感じません?」
「美しいと思います。」
「美しいというよりか、すがすがしいといった方がぴったりしなくって?」
「ええ。」
 次郎は、彼がこれまでに接したいかなる女性にも――亡くなった母にさえも――見出せなかったものが、この奥さんの言葉の中からしみ出て来るの
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