女の子は急にとんきょうな声を出して、二人を見くらべていたが、最後に、次郎を尻目にかけるようにして、奥に走りこんだ。
二人が間もなく案内されたのは、帳場からちょっと廊下をあるいた、茶の間とも座敷ともつかない部屋だった。
「いらっしゃいまし。」
お内儀さんは、変にかしこまった調子で二人を迎えた。浴衣に伊達巻をしめたまま、畳のうえに横になっていたものらしく、朱塗の木枕だけが、部屋の隅っこに押しやってある。
「せっかくおやすみのところをお邪魔でした。」
俊亮も、いくぶん切口上で言って、敷かれていた座蒲団の上に坐った。次郎は座蒲団を前にして坐っている。
「坊ちゃんもお敷きなさいまし、どうぞ。」
と、お内儀さんは、いよいよ冷たい丁寧さである。次郎は、しかし座蒲団をしかなかった。
しばらく沈默がつづいたあと、俊亮が口をきった。いかにも無造作な調子である。
「昨日は、私の留守中、申訳ないことをいたしました。今日はそのおわびに上ったんです。」
「それは、わざわざ、どうも。」
お内儀さんは、そう言ったきり、にこりともしない。そのあと相手がどう出るか、それがわかったうえでなければ、迂濶《うかつ》に笑顔は見せられない、といった態度である。
「この子も大変後悔していまして、自分でもおわびしたいと言うものですから、いっしょにつれて来ましたようなわけで。」
「それは感心でございますね。今どきの書生さんにはお珍らしい。」
次郎には、「書生さん」という言葉が聞きなれない言葉だった。彼は、わけもなく、それに侮辱を感じたが、あやまる機会を失ってはならない、という気もして、膝の上にのせた両手をもぞもぞ動かしながら、思いきって口をきこうとした。しかし、お内儀さんは、次郎のそんな様子には無頓着なように、ひょいとうしろ向きになって、茶棚の袋戸をあけ、中から一本の燗徳利を出して、それを畳の上に置いた。そしてあらためて俊亮の方に向きなおったが、その顔にはうす笑いが浮かんでいた。次郎の張りきった気持は、それで針を刺《さ》された風船球のようにしぼんでしまった。
「おわびしたら、どうだ。」
俊亮が微笑をふくんだ眼で次郎を見た。次郎は、しかし、もうつめたい眼をしてお内儀を見ているだけである。すると、お内儀さんは、
「ほっほっほっ。」
と、急にわざとらしい空っぽな笑声を立て、
「私は、こんな小っちゃな坊ちゃんに、何もお芝居めいてあやまって貰いたくはありませんよ。それよりか、このお酒のおかげで台なしになった春月亭の暖簾《のれん》を、どうして下さるおつもりなのか、それがお伺いしたいんです。」
「あの酒を、もうおつかいでしたか。」
「つかいましたとも。まさか酒屋さんがつかって悪いお酒をお売りになろうとは思っていませんからね。」
「おつかいにならんように、そう言ってあげたはずですが。」
「私の方のお客は、日が暮れてからばかりみえるとは限りませんよ。」
「それは、いよいよ、すまないことでした。」
俊亮はそう言って、ちょっと眼を落した。お内儀さんは、「それでどうしてくれるんだ」というような眼付をして、俊亮をまともに見つめていたが、俊亮が、そのあと、いっこう口をきかないので、たまりかねたように、
「ねえ、本田さん。」
と、燗徳利を自分の膝のまえに引きよせ、
「あたしがこのためにどんな赤恥をかいたか、ひととおりお耳に入れて置きますから、ようくきいて置いて下さいよ。昨日は、永年ごひいきのお客が見えましてね、それも久しぶりのお友達と御夕食をめしあがろうというのですよ。あたし、まだお吸物も差上げないうちにお呼びだものですから、何事かと思ってお座敷に出てみますと、そのお客さん、すました顔で私にお盃を下すって、わざわざご自分でついで下さりながら、仰しゃることが変じゃありませんか。お前もこのごろ少し焼きがまわったようだねって。あたし、何のことだかわからなくって、盃を手にもったままご挨拶に困っていますと、今度は、盃はさっさとのんで返すもんだよ、と仰しゃる。そこで、あたしがぐっと飲みほしたっていうわけでございますがね。」
俊亮は、しかし、いっこうに驚いたようなふうがない。
「なるほど。」
と、彼は二度ほど軽くうなずいて見せたきりである。お内儀さんは、それがぐっと癪にさわったらしく、
「本田さん!」
と、燗徳利をわしづかみにして膝を乗り出しながら、
「そのお酒というのがこの銚子のお酒なんですよ。この中にはあんたのお店からいただいたお酒がはいっているんですよ。おわかりでしょうね。」
「ええ、多分そうだろうと思っていました。とんだご災難でしたね。……お気の毒です。」
俊亮は、まじめくさってそう言ったが、それでお内儀さんの機嫌はいよいよ険悪になった。
「あんた、わざわざ、あたしをばかにしにお出
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