の段階に達したのを機会に、それを一冊にまとめ、「次郎物語第二部」として世に送ることにした。
もっとも「新風土」に連載しただけでは、多少書き足りない点もあったので、いよいよまとめることになってから、書き足した部分がある。一五、一九、二〇の三章がそれである。
*
念のために一言しておきたいのは、「次郎物語」第一部と第二部とは、次郎という一少年の成長記であるという点で、むろん一連の物語であるが、主題的には、両者はそれぞれ独立した物語になっているということである。
前者においては、私は、運命の子次郎の生い立ちを描きつつ、実は主として「教育と母性愛」との問題を取扱った。その意味では、次郎は物語の主人ではあっても、問題の持主ではなかった。彼の生活の大部分は、むしろ、世の親達にそうした問題を考えてもらいたいための材料として描かれたようなものだったのである。
だが、後者においては、次郎はもっと独立性をもった存在になっている。彼は、依然、母性愛に恵まれない運命の子として、世の親達にいろいろの問題をなげかけるではあろうが、最も大きな問題の持主は、実は彼自身である。「自己開拓者としての少年次郎」――それが、つまり、この篇の主題なのである。
第一部において、彼の幸不幸を決定したものは、主としてその環境であった。そして、彼はその環境に対して、いつも、自然児的、本能的、主我的な闘いを闘って来たのである。だが、第二部においては、彼は徐々に彼自身の内部に眼を向けはじめ、そこに、周囲から与えられる幸福以上の何ものかを、探し求めようとしている。かくて彼の闘いは、次第に、理性的、意志的、道義的になって行くのである。
*
では、かような変化が、彼にどうして起ったか。それはいろいろなことが考えられるであろう。年齢か、環境か、教育か、愛か、運命か、人間共通の自然か、そもそもまた、そうしたことのすべてか。それについては、本篇に描かれた次郎の生活の実際に即して、読者と共に考えて行くことにしたいと思う。
昭和十七年五月五日[#地から2字上げ]湖人生
底本:「下村湖人全集 第一巻」池田書店
1965(昭和40)年7月10日発行
※「黒+犬」は、「默」で入力しました。
入力:tatsuki
校正:松永正敏
2005年12月9日作成
青空文庫作成ファイル:
このフ
前へ
次へ
全153ページ中152ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング