のことはほかの生徒には秘密だぞ。喋ったって誰の名誉にもならん。」
朝倉先生が立ち上ると、二人も立上った。そしていっしょに銃器庫の角をまがりかけたが、朝倉先生は思い出したように、
「おお、そうだ。本田にはまだ言うことがあった。本田は今度の時間は何だ。」
「剣道です。」
「じゃ道場の方にいっしょに歩きながら話そう。教室にはもう用はないかね。」
「竹刀をとって来ます。」
次郎は走って自分の教室に入り、机の上に放ってあった弁当がらを始末して、すぐ朝倉先生のあとを追った。
朝倉先生は、渡り廊下を通らないで、白楊《ポプラ》の並木を仰ぎながら、ぶらりぶらり外をあるいていた。次郎が追いつくと、ちょっと時計を見て、
「まだ少し時間がある。腰をおろそう。」
と、一本の白楊の根もとの草に腰をおろし、次郎を手招きした。次郎が多少はにかみながら、並んで腰をおろすと、先生はすぐ話し出した。
「自分より強いと思っていたものに一度勝つと、そのあと善くなる人もあるが、かえって悪くなる人もある。君は多分よくなる方だと思うが、気をつけるがいい。とにかく自惚《うぬぼ》れないことだ。いい気になって増長しないことだ。自分は強いと自惚れたら、もうそれは弱くなっている証拠なんだからね。やはり慈悲心さ。慈悲心がある人は、どんなつまらん人間をでも軽蔑はしない。それから――」
と、朝倉先生は微笑しながら、
「君は小刀を握っていたね。あの時はやむを得なかったかも知れんが、これからは、もう兇器だけはよした方がいい。戦争じゃないからな。日本人同士が傷つけあうようになっては大変だ。それにあんなものを使って勝ったところで、ほんとうの勝にはならん。心で勝つのが、ほんとうの勝だ。つまり、相手を恐れさせるんでなくて、慕わせる。それが最上の勝だ。そうなるとやはり慈悲心だね、一番強いのは。……とにかく刃物はいかんよ。相手のために危険であるというよりか君自身のために危険だ。なあに、自分がなぐられる覚悟をきめさえすれば何でもないよ。なぐられるたびに偉くなると思えば、なぐられるのがありがたいくらいなもんだ。」
先生の言っている言葉の意味は、次郎にもよくのみこめた。しかし、気持としては、まだどこかぴったりしないところがあった。彼はいくぶんためらいながら、たずねた。
「先生、剣道は何のためにやるんですか。」
「うむ――」
と、先生は、
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