がバックするなんて言うと、大げさになるし、そうなると、五年生だって負けてはいないだろう。それでは学校が大騒ぎになる上に、君の弟のためにもかえって悪いよ。四年生に侮辱された上に、五年生全体にいじめられることになるんだからね。……どうだい、諸君、みんながそのつもりで、目立たないように本田の弟をバックしてやろうじゃないか。」
 方々で賛成の声がきこえた。
「なるほど、そいつは名案だ。そんな工合にやると、五年生に対して自然四年生の権威を示すことも出来るわけだ。」
 誰かがそんなことを言った。
「おい、おい――」
 と、大沢はその生徒を見て、
「そんなけちなことを考えるのは、よせ。僕らは、四年とか五年とかいうことにこだわる必要はないんだ。それよりか、一年から五年までの正しい生徒が、縦《たて》に手を握りあうことが大切じゃないか。本田の弟も、その正しい生徒の一人だ。だから僕らはそれをバックしようと言うんだ。……四年生にだって、つまらん奴はいくらも居る。――僕らは――少くとも僕だけは――そんな奴とは手を握りたくない。そんな奴と手を掘って、五年生に対抗したって、それが何になるんだ。」
 彼は、いつの間にか、演説でもするような態度になって、つづけた。
「元来、正義は階級にあるんじゃないんだ。どんな階級にだって、正しい人もいれば、正しくない人もいる。正義は、それをもっている一人一人の胸にしかないんだ。五年生は五年生なるが故に正義の持主ではない。同様に僕らも、四年生なるが故に正義の擁護者だと主張するわけにはいかない。四年生とか五年生とかいうことは、要するに正義とは何の関係もないことなんだ。それをいかにも関係があるかのように思いこんでいるところに、この学校の病根があり、校風のあがらない大きな原因があるんだ。この学校では、上級の名においていつも正義が蹂躙《じゅうりん》されている。現に本田の弟の場合がそれだ。僕はもう一度はっきり言う、正義は階級になくて人にあるんだ。もしそうでなければ、全校一致も期待出来ない。それが期待出来るのは、正義が階級の独占物《どくせんぶつ》でなくて、何人の胸にも宿りうるからだ。だから僕は、同級生の団結よりも、正しい人の団結が先ず必要だと思う。僕は四年生を愛し、五年生を憎むために、本田の弟をバックしようと言うんじゃない。僕は学校全体を愛するんだ。学校全体の正義を愛するんだ。
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