った。
「出て来いと言ったら、出て来い!」
 もう一度狐が叫んだ。しかし次郎はびくともしなかった。
「上級生の命令をきかんか! ようし!」
 狐は、そう叫んで指揮台を飛びおりると、新入生の列を乱暴に押しわけて、次郎に近づいた。そして、いきなり彼の襟首をつかみ、引きずるようにして、彼を指揮台のまえにつれて行った。すると、ほかの五年生が四五名、ぞろぞろとそのまわりによって来た。その中には、最初演説した生徒や、獰猛な山犬の顔は見えなかった。しかし、その代り、三つボタンが恐ろしい眼をして彼を見据えていた。
「名は何というんだ。」
 狐がたずねた。
「本田次郎。」
 次郎はぶっきらぼうに答えた。
「ふむ、生意気そうだ。」
 三つボタンがはたから口を出した。
「貴様はさっき俺を睨んでいたな。」
 狐が今度はうす笑いしながら言った。
「見てたんです。」
「何? 見ていた!」
「ええ、見てたんです。地べたを見るのは無礼だって言うから、顔を見てたんです。」
「理窟を言うな!」
 鉄拳が同時に次郎の頬に飛んで来た。しかし、次郎の両手が狐の顔に飛びかかったのも、ほとんどそれと同時だった。
 それからあと、次郎は何が何やらわからなかった。ただ真っ黒なものが周囲をとりかこみ、そこから手や足が何本も出て、自分のからだを前後左右にはねとばしているような感じだった。
「もう、よせ! もうこのくらいでいいんだ。」
 山犬の声に似たどら声がきこえて、彼の周囲が急に明るくなったと思った時には、彼は地べたに横向きにころがっていた。彼の顔のまんまえには、ペンキのはげた指揮台が、二つ三つ節穴を見せて立っていた。
 彼は、じっと耳をすました。
「馬鹿な奴だ。」
 そんな声がどこからかきこえた。
 彼は、その声をきくと、無意識に起きあがった。そして、くるりと向きをかえて新入生の方を見た。彼はもうすっかり落ちついていた。新入生たちは、みんな青い、おびえきったような顔をして、彼を見ていた。その青い顔の両側に、五年生たちが、にやにや笑って立っているのが、はっきり見えた。
 次郎は、その光景を見ると、これからどうしたものかと考えた。もとの位置に帰る気には、とてもなれなかった。かといって、いつまでもそのまま立っているわけには、なおさらいかない。彼は、しばらく、じろじろと周囲を見まわしていたが、ふと目のまえに、ふみにじられた
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