ろ祝福さるべきであったかもしれない。
彼は、実際、この一年間で、自分の置かれている立場を、ほとんど第三者的な冷静さで観察する術を学んだ。また、多少の身びいきや偏見がまじっていたとしても、自分というもののほんとうの姿を、だいたいにおいて正しく見|究《きわ》めることが出来た。そして、それが、自己嫌悪に似た感情に彼を引きずりこんでいたこともたしかだったが、一方では、彼は彼自身と彼の周囲とに対していつの間にか、新しい闘いを闘いつつあったのである。その闘いは、もう以前のような気分本位の闘いではなく、その中には、幼稚ながらも、ある思想と、比較的永久性のある感情とが流れていた。それは、むろん、まだ「永遠」への思慕と呼ばるべきものではなかったのであろう。しかし、何かより高いものを求めないではいられない気持が、「運命」と「愛」との現実の中で、ほのぼのと息をつきはじめていたことだけは、たしかだった。
で、彼が第二回目に中学校の入学試験をうけた時には、彼はもう世間なみの受験生ではなかった。少くとも中学校の制服制帽にあこがれるといったような子供らしさは、すっかり超越《ちょうえつ》していた。そして入学後の生活というものに、ある真面目な期待をかけて、試験場にのぞんだのである。合宿――権田原先生の注意で、今度は彼も合宿に加わることになったが、――での彼の様子も、じっくりと落ちついており、いつも考え深そうな顔をしていた。試験場から帰って来て、権田原先生を中心に、みんなが、試験問題の解答について、興奮した調子で話しあっている時でも、彼は、一人で、何かべつの本を読んでいた。それは、彼が成績に十分な自信があったからばかりではなかったのである。
それでも、いよいよ成績の発表があり、中学校の生徒控所に張り出された合格者のなかに、自分の名を見出した時には、彼もさすがに落ちつけない気持だった。そして、家に帰ると、さっそく俊亮に教科書や学用品を買ってもらうようにねだった。俊亮も、次郎のそうした子供らしい様子を見るのはひさびさだったので、その日、忙しい仕事があったのをあとまわしにして、すぐ次郎をつれて書店に出かけた。
ひととおり必要な教科書や学用品を買ったあと、次郎は絵はがきがほしいと言い出した。すると俊亮は、いかにも無造作に、
「買いたいものがあったら、何でも今買っとくんだ。父さんは、めったにいっしょには
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