は妙なところに性急《せっかち》ね、ふだんは、のんきな癖に。」
「お前はそのあべこべかな。」
「まあ! すぐそれですもの。」
「とにかく、誰か使いに行って貰いたいと思うね。」
「誰もいませんのよ、今日は。」
 お民は突っけんどんにそう言って部屋を出ようとした。俊亮は、しかし、相変らず悠然と構えて、
「恭一では駄目だろうか。もうこの位の使いは、やらしてみるのもいいんだが。」
「でも、あれは気が弱くて、まだ正木へ一人でなんか行ったことありませんわ。それに、どうせお祖母さんのお許しが出ませんよ。」
「困るなあ、いつまでもそんなに甘やかしていたんじゃ。……いっそ次郎なら行けるかも知れんね。」
「まさか、なんぼあの子が意地っ張りでも。」
「いいや、あいつなら行けるかも知れんぞ。……そうだ、あれをやろう。しかし、道を知るまいな。」
「道なら、この夏からもう五六度もつれて行きましたから、大ていは解っていると思いますわ。……でも、あんまりじゃありません。恭一と二人でなら、とにかくですけれど。」
「そうだな、二人づれだとお祖母さんにも不服はないだろう。」
「さあ、それはお訊ねしてみませんと……」
「ともかくも、二人をここに呼んでみい。駄目なら駄目でいいから。」
 お民はしぶしぶ出て行った。そして間もなく二人をつれて来て、火鉢の前に坐らせた。
「恭一、お前、正木のお祖父さんとこまで、使いに行って来い。」
「…………」
 恭一は、何のことだか解《げ》せないと言ったような顔をして、父を見た。
「駄目か、一人がいやなら次郎をつれて行ってもいいが……」
「…………」
 恭一はやはり返事をしないで、今度は母の顔を見た。
「二人でもいやかね。正木のお祖父さんが喜ぶんだがな。」
「…………」
 恭一は眼を伏せて、母によりそった。
「やっぱり駄目か。次郎、どうだい、お前は。」
 次郎はそれまでに何度も恭一の顔をのぞいていたが、「行こうや、恭ちゃん。」と少しはしゃぎ加減に言った。
 恭一は、横目でちょっと次郎の顔を見たきり、やはり、返事をしない。
「恭一がいやなら、次郎一人で行け。どうだい。」と、俊亮は少し笑いを含んで、そそのかすように言った。
 さすがに次郎も、それにはすぐ返事が出来なかった。そして、しばらくは、わざとらしく首をひねっていたが、いかにも歎息するように、
「僕、道を間違えるといけないからな
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