たくし、このごろ毎晩のように二人の夢を見るのでございます。」
次郎たちは、次の間からそれを聞いていた。
しかし、三時をうつと、彼女は急にそわそわし出した。そしていかにも言いにくそうに、
「わたくし、一晩ぐらいは看病もいたさなければなりませんが、今日は俊亮もちょっと遠方に出ていますし、店の方が小僧任せにしてありますので、日が暮れないうちにお暇いたしたいと存じます。まことに勝手でございますが……」
お民も、正木のお祖母さんも、ほっとしたらしかった。しかし、本田のお祖母さんはすぐには立ち上らなかった。そして、次の間にいた子供たちの方に眼をやりながら、言った。
「ああして大勢ご厄介になっているのも、かえって病人の邪魔になるばかりでございましょうから、一先ず、わたくし、つれて帰りたいと存じます。次郎も、もし火傷の薬さえきまって居りましたら、一緒でもよろしゅうございますが……」
次郎は、それで自分も一緒に行くことになりはしないか、などと心配する必要はすこしもなかった。しかし、恭一や俊三に帰ってしまわれるのは、いやだった。まだ一度だって喧嘩もしていないし、それに、恭一には、中学校の入学の参考になることを、これからもっと聞きたいと思っている。第一、母さんの病気が重いのに、帰ってしまうのはよくないことだ。今は休みなんだから。――彼はそんなことを考えて病室の様子をうかがっていた。
「邪魔なんてことはちっともございません。お民も毎日三人のそろった顔が見られるのが楽しみのようでございますから。」
「それはさようでございましょうとも。でも、私どもといたしましては、病人をお預けしたうえに、みんなで押しかけて参っているようで、まことに面目がございませんし、やはり行ったり来たりということにさせていただきたいと存じて居ります。」
「そんなことは、こちらでは何とも思うものはございませんが……」
「そりゃもう、こちら様のお気持はよくわかって居りますし、いつも俊亮ともそう申しているのでございます。でも、やはり世間の眼もありますので……」
「世間など、どうでもよいではございませんか。それを言えば、第一、病人をお預りすることからして間違っていましょうから。」
正木のお祖母さんは、別に皮肉を言うつもりではなかった。しかし、それは本村のお祖母さんにとっては、何よりも痛い言葉だった。正木のお祖母さんも、言
前へ
次へ
全166ページ中154ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング