いよませ[#「ませ」に傍点]て来た。
そして、世間というものがいくらかずつわかり出すと、もう自分の家と親類の家とをはっきり区別して、自分が現在どんな位置に居るかを考えずにはいられなくなって来た。
(自分はこの家で生まれた人間ではない。誠吉なら威張ってこの家の飯を食って居れるが、自分はそういうわけにはいかないのだ。)
こんなことに気がつき出した彼は、変に何事にも用心深くなった。そしてこれまで謙蔵に対してだけ感じていた窮屈さを、この家のすべての人に対して感じるようになり、祖父や祖母に対してすら何かと気兼《きがね》をするようになった。また、雇人たちが彼に向かって軽口をたたいたり、ちょっと手伝いを頼んだりすると、何だか侮辱されたような気がして、以前のように気軽にそれに受答えすることが出来なくなってしまった。
それに、何よりも、彼に変に思われ出したのは、このごろのお祖父さんやお祖母さんの素振《そぶり》に、何か彼にかくし立てをしているようなところが見えることであった。二人共、最近しげしげと本田を訪ねるのに、いつも次郎には知らさないで出て行ってしまった。帰って来ても、本田の話をするのを、なるだけ避けようとするふうがあった。
「町になんか行くひまに、うんと勉強して、お前も来年は中学生になることじゃ。」
これが、彼を町につれて行かなかった場合の、お祖父さんのいつもの口癖であった。するとお祖母さんも、すぐそのあとについて、
「恭一は優等で二年になったそうだよ。」
と、きまり文句のように言うのであった。
次郎は、そんなふうに言われると、いよいよ疑ぐり深くなった。彼は、本田と正木との間に、自分のことについて、何かこそこそと相談しあっているのではないかと疑ったりした、こうして彼の幼いころからの孤独感は、ますます色が濃くなっていくのであった。
そろそろ夏が近づいて来た。ある日、彼が学校から帰って来て、子供部屋になっている二階に上ろうとすると、座敷の方から、思いがけない俊亮の声が聞えて来た。彼は、はっとして梯子段を上りやめて、そっと声のする方をのぞいてみた。すると、そこには、老夫婦に、謙蔵、お延、俊亮の五人が真面目くさった顔をして坐っていた。彼らは、次郎が梯子段《はしごだん》を上る音で話をやめ、一せいにこちらを見たらしかったが、誰の顔も石像のように固かった。ひさびさで逢った俊亮です
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