盟でも結んでいるかのような気になってしまった。
 誠吉は気の弱い子で、次郎の遊び相手としてはすこぶる物足りなかった。しかし、次郎は、いかなる場合にも誠吉の味方になることを忘れなかった。学校の往きかえりはもとより、戦争ごっこや、鬼ごっこや、隠れんぼなどで、誠吉が不利な立場に立っていると、何とかして彼を助けてやろうとした。また時としては、正木老夫婦や、謙蔵や、お延の前で、こまちゃくれた口の利きかたをして、誠吉の過失を弁護したりすることもあった。そんな場合、お延は迷惑そうな顔をして、次郎の出しゃばりをたしなめ、一層きつく誠吉を叱るのだった。次郎は、しかし、それはお延の本心ではなく、内心ではかえって自分に感謝しているのだと、一人ぎめに、きめてしまっていたのである。
 次郎のこまちゃくれたおせっかいも、この程度でとまって居れば、大したことにはならなくてすんだのであるが、あるはずみから、とうとう彼は、取りかえしのつかない失敗を演じてしまったのである。
 ある日次郎が、みんなより少しおくれて、学校から帰って来ると、土蔵と母屋との路地に、誠吉がしょんぼりとたたずんで泣いていた。わけを訊ねてみると、土蔵の白壁に鉛筆で落書きをしているところを謙蔵に見つかって、叱られたというのである。恐らくそれは、謙蔵が通りがかりに一寸注意した程度のものだろうと思われるが、かりそめにも、謙蔵に直接叱言をくったということは、誠吉にとって気味のわるいことだったに相違ない。次郎もむろん無関心では居れなかった。彼は、彼の頭に映っている謙蔵と、目の前にしょんぼり立って泣いている誠吉とを結びつけて考えながら、一種の義憤《ぎふん》にかられて来た。しかし、自分が全然知りもしないことを、いつもの通り誠吉のために弁解するのも変だ。また、かりに弁解するとしても、どう弁解すればいいのか、誰のところに持っていけばいいのか。これまでは叱り手が必すお延だったので、言い出しやすかったが、謙蔵に直接では、すこし勝手がわるい。――次郎はそんなことを考えているうちに、ますます謙蔵が悪い人のように思われて来た。
「次郎ちゃん、あやまっておくれよ。」
 誠吉は、口に指をくわえながら言った。次郎は、しかし、誠吉の弱々しい言葉をきくと、一層力みかえった。
「何だい? あやまることなんか、あるもんか。」
「だって、僕、見つかったんだもの。」
「見つか
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