、自分だけは、ぽかんと道の真ん中に突っ立っていたりした。
「面白くないなあ。」
 とうとう仲間の一人が不平を言い出した。
「学校に行ってみようや。」
 他の一人が提議した。みんながすぐそれに、賛成した。
「前へ進め!」
 次郎はすぐ、彼らを二列縦隊に並べて、号令をかけた。彼はみんなの先顔に立って、今度は非常に元気よく歩き出した。
 むろん、他の子供たちは新校舎の方に行くつもりでいた。ところが、次郎は、別れ道のところまでくると、道を左にとって、旧校舎の方に行こうとした。
「どこへ行くんだい?」
「こっちだい。」
 みんなは列をくずして、がやがや言い出した。それからしばらくの間、彼らと次郎との間に論戦が交された。彼らは、あんな破れかかった学校なんかつまらない、と言った。次郎は、空家になった校舎の中であばれるのは面白い、と言った。議論は容易に決しなかった。
「僕一人で行かあ。」
 とうとう次郎は怒り出して、さっさと一人で旧校舎の方に歩き出した。するとみんなもしぶしぶそのあとについた。
 ところで、空家になった校舎の中で、存分にあばれまわることは、彼らの予期しなかった新しい楽しみだった。第一、床板の反響が、異様に彼らの耳を刺激した。壁の破れ目に、棒を突っこんでこじ上げると、大きな壁土がくずれ落ちて、砲撃の瞬間を思わせるような感じを与えるのも彼らの興奮の種だった。彼らは、ついに、むりやりに数枚の床板をはずして、そこを塹壕《ざんごう》になぞらえ、校庭から沢山の小石を拾って来て、それを弾丸にした。小石が土壁にあたると土煙が立ち、板壁にあたると、からからと音を立てた。墓地や鎮守の杜でやる戦争ごっことちがって、次から次へと、眼の前に惨澹《さんたん》たる破壊のあとが現れるので、彼らはいよいよ興奮した。
 次郎は、しかし、彼らが興奮すればするほど、淋しくなった。彼は、間もなく、自分の思いつきを後悔した。そんて、仲間が石投げに夢中になっている間に、一人でこっそり校番室に這入りこんで、昨日お浜が腰をおろしていたあたりに、悄然と腰をおろした。
 小石はおりおり、校番室の隣の部屋にもがらがらと音を立てて、ころげて来た。そのたびに、彼は胸の底を何かで突っつかれるような痛みを感じた。
(この部屋だけは荒らさせたくない。)
 彼は、急に、仲間のすべてを敵にまわして、自分一人で校番室を守ってでもいるよう
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