り、そのむこうにはこんもりと繁った杉林があった。その杉林を背景にして、新しい柱が、何本も何本も、真っ白に光って立ち並んでいくのを、子供たちは、毎日教室の窓から眺めて、胸を躍らせた。
「今度の学校はすばらしい。」
休み時間になると、誰言うとなく、そんなことを言い出して、彼らはお互に感激にひたるのだった。
次郎は、授業が終ると、きっと四五人の仲間と大工小屋にやって来て、仕事の運びを眺めたり木屑を玩具《おもちゃ》にして遊んだりした。彼は自分たちの教室のことよりも、お浜たちの部屋がどの辺になるだろうかと、いつもそれを注意していた。そして何度も大工たちにそれをきいてみるのだったが、誰もろくに返事をしてくれる者がなかった。
いよいよ落成したのは、その年の暮近くだった。次郎は、部屋という部屋を一わたり歩いてみたが、どの部屋もがらんとしていて、校番室がどれだか、まるで見当がつかなかった。土間につづいた三畳敷の部屋が、それだろうとも思ったが、それにしては少し狭《せま》すぎた。その次に、もう一つかなりの広い畳敷があった。しかしそれは三畳敷とは壁で仕切ってあり、それに床の間がついていたりして、お浜たちの部屋にしては、少し立派すぎるように思えた。
明日から冬休みが始まるという日に、三年以上の児童たちは、みんな居残って、旧校舎の道具を、新校舎に運びこむことになった。それは児童たちにとっては、このごろにない愉快な作業だった。霜どけの田圃《たんぼ》道を、黒板や、腰掛や、掃除道具などの行列が、かまびすしい話し声と共につづいていた。
次郎は、腰掛を一つと箒を一本だけ運んでしまったらすぐかえってもいい、と先生に言われていた。しかし、彼は、それだけでは何だか物足りなく感じた。六年生などと一緒に、黒板か何か大きいものを担《かつ》いで、もっとはしゃいでみたい気がした。で、彼は、自分の受持をすましたら、校番室の道具でもいくらか手伝ってやろうと考えていた。
しかし、彼が新校舎から引返して来て校番室に這入ってみると、そこはもうがらんとしていて箒一本残っていなかった。そして、お浜かたった一人、気ぬけがしたように上り框に腰をかけて、自分の膝の上に頬杖をついていた。彼女は次郎の這入って来るのをぼんやり見ていたが、
「次郎ちゃん、もうおすみ?」
と、力のない声で言った。
「ああ、すんだよ。これから乳母やのと
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