支那の書物に著はされてある扶桑の國の位置は、もし架空の神話からでなく幾分の現實性ある知識から出でたものとすれば、富士の靈峰が太平洋の清波に影を投ずる地方即ち昔時のプサ國でなければなりませぬ。今日に於てもアイヌ語でプサと云ふ語が存在して、麻苧のことを意味して居りますが、此の語は、アイヌが本來の語であるか、或は天富命に從うて、江戸灣、靜岡灣一帶の地に楮麻を植ゑた大和民族の言葉から借り用ひたものか、否やの問題に至りては暫らく後賢の研究を待つことにいたします。
 將軍米准那の舟師を支那に遣はした南印度の王は、捺羅僧伽補多跋摩《ナラシンハポータ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ルマン》と云ふ名の方で、跋摩(鎧)と云ふ語で終つてあり、正眞正銘の刹帝利種である事が明白であるのみならず、またパツラ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]族の王者であると云ふ事も判明して居ります。また捺羅僧伽《ナラシンハ》は、韋紐天第四の化身の名であります。即ち人身獅頭の化身で、惡鬼を退治せんため天より下界に降臨した韋紐天の名をつけたものでありますから、正眞正銘の印度アーリヤの信仰を持つた王者であつた事はこれでも知れま
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