らるゝこともあります。上總と下總との國名は好適例であります。これは、もと/\「カミプサ」と云ひ「シモプサ」と呼んだことに相違ありません。然る處「カミプサ」の場合には、第二位の「ミ」は、いつしか單に鼻音化せる母音となり、これに影響せらるゝ第三位の「プ」は、第四位の「サ」の摩擦音の硬音性にも影響せられ結局以[#レ]和爲[#レ]貴とあつて、第二位の「ミ」から軟音性をとり、第四位の「サ」から摩擦音性をとりて結局「プ」の音は軟音の摩擦音即ち「ズ」となつたものと思はれます。下總の國名の場合には、今日の實際の發音は「シモーサ」で、先年文部省で制定した字音假名遣の[#「字音假名遣の」は底本では「字音假名遺の」]棒引法では、洵によく現實の發音が寫されて宜しきやうでありますが、民間ではやはり「シモフサ」と書きまして今日に至つて居ります。半濁音の性質を失つただけで、やはり民間の假名遣法には神代ながらの俤を保存して居ることには、私ども老人には何となく嬉しき心地があります。
私は金剛智三藏や將軍米准那のことにつきて講演致しながら、何等これと關係のなき「プサ」の國の由來を持出して、長々しく諸君の清聽を汚した事を
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