、佛教の僧侶を保護して、或は阿育王の建てた「ブヒルサ」古代の「※[#濁点付き片仮名ヱ、1−7−84]デイサ」(Vedisa, Bhilsa)の塔を修築し、或は諸方に洞窟を掘つて僧坊に宛て、或は盛んに佛寺を建立した 〔C,a_ta−karni〕《シヤータ、カルニ》[#nは下ドット付き] 王の名の訛略即ち「シヤーンタカ」〔C,a_nta−ka(rna)〕[#後のnは下ドット付き] であるまいかと私は思ひまするから、茲に問題になつて居りまする「パツラ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]」王朝とは何等の關係はありませぬ。また此の王朝の特徴は、航海通商に力を効したことで、支那に於ける禪宗の始祖と云はるゝ達磨大師は香至國(〔Ka_n~ci−pura〕)の王子であつたとの事から見ると、「パツラ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]」種族の出身と見なければならぬ。達磨大師は南北朝時代に梁の武帝の普通元年廣州即ち廣東に來たとの事であるから、西暦紀元五百二十年で金剛智三藏の入唐に先立つこと二百年であります。此の時代の「パツラ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]」王朝は二分せられ、香至國以外に「グンツール」(Gunthur)と「ネロール」(Nellore)との間にあるパラクカダ(Palakkada)と云ふ地に都がありましたから、いづれの王朝の王族であつたか判然せぬが、とにもかくにも、達磨大師は、「パツラ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]」族の王子であつたに相違ない。刹帝利種で、金剛智三藏のやうな婆羅門族でなかつたことは明白である。其の廣州に入つた當時は世壽幾何であつたか判然せぬが、西暦紀元五世紀から六世紀に至りて、パツラ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]種族の王には、一方では「スカンダ・※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ルマン」あり(四百五十年―四百七十五年)、(別紙表參照)「シンハ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ルマン」あり(四百七十五年―五百年)、「スカンダ・※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ルマン」(五百年―五百二十年)、「ナンデイ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ルマン」(五百二十五年―五百五十年)あり、他方では、「※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]シユヌ・ゴーパ」あり、「シンハ・※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ルマン」あり、また「※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]シユヌ・ゴーパ」あり、また「シンハ・※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ルマン」あり(五百五十年―五百七十五年)、達磨大師は梁の武帝の大通元年遷化した筈だから、いづれ前に掲げた王樣の誰かの子であつた筈である。其の血脈の中には、印度の武人の血が流れて居たに相違ない。梁の武帝の小乘的思想を無功徳の三字で喝破しただけの勇氣はあつた人に違ひない。また見樣によつては、羅馬武士に劣らぬ「パルテイヤ」武士の血が流れて居つたとも見られる。世人は、達磨大師の面壁九年の話やら、神光との問答の話や、大師に關する種々の奇怪なる話が如何にも常情を以て測ることの出來ぬを見て、達磨大師西來の眞面目につき種々の懷疑的評論をなす人もある。私どもも、達磨大師の支那に來たのちの傳説は後人の作であつたと云ふ説には、或る程度まで尤もだと思ひますが。達磨大師に限らず、當時印度に於て漸く組織的になり、體形を具するに至つた新佛教の哲學及びこれに基づきて現はれた修養・教育方法を傳へんため、支那に來た眞諦三藏等が、實利一點張りの南方支那人、官仕して利禄を求むることに終生專念する南方の支那人、華靡、駢儷對偶の文體に浮身をやつす支那の文人または知識階級に接して、適當なる法器を發見し得るに如何に苦心し失望したか、達磨大師に關する物語から推測することが出來ると思ふものであります。達磨大師が印度から支那へ西暦紀元五百二十年に來たか否か、梁の武帝と問答したか否か、乃至一葦の葉に身を托して、揚子江を渡つて北方支那に向つて赴いたか否か、私どもの問ふところでない。たゞこれによりて、印度に起つた大乘佛教の思想が南方支那を見限つて北方支那に移り、北方支那にも僅に履半足だけを殘して再び流沙葱嶺の西に歸つたと云ふことで、西暦第六世紀の前半には、南北支那いづれも大乘相應の國でなかつたことを認知すれば、それでよろしいのであります。それから約二百年を距てて、同じ「パツラ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]」族の國から、印度宗教の精華、大乘佛教の極致たる眞言密教を金剛智三藏が來りて支那に傳へ、支那の民族的宗教の道教と融合して、渾然相支吾することなき密教を、儒道佛の三教に通じた宗祖大師によりて、達磨大師の時代から三百年の後に我が國に將來せられたのであります。其の間に、達磨大師の提唱にかゝる新興佛教に驚魂駭魄の支那の知識
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