そして、信長を亡し、所領を奪うことができたのである。
 信長はそれを心配したことがなかった。いつもガラあきの城を明け渡して戦争にでかけるのだ。しかし、信長の敵たちはまだ道三の心を疑っていた。そんな筈は有りッこないと思ったのである。今に信長はやられるだろうと考えていた。一年たち、二年たった。信長はやられない。
 人々は仕方なしに大悪党のマゴコロを信じなければならなくなった。薄気味わるくなってきた。やられるのは信長ではなくて、信長の敵の自分たちかも知れないと感じるようになったのである。ウッカリ信長に手出しができなくなってしまった。失われた信長の兵力は少しずつ恢復しはじめた。

          ★

 義龍にライ病の症状が現れた。
「六尺五寸のバカでライ病。取り柄がないな」
 道三は苦りきった。
 義龍はひそかに自分の腹心を養成し、また寄せ集めた。マジメで、行いが正しくて、学を好み、臣下を愛した。全てが道三のやらないことであった。
「六尺五寸もあって、それで人前で屁をたれることも知らないバカだ」
 道三の毒舌は人々を納得させるよりも、むしろ人々を義龍に近づけ彼らの団結を強くさせる役に立っ
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