は充実しつつあるばかりだ。
信秀が負け犬の遠吠えのように美濃の城下を遠まきに野荒しをやって逃げたのも笑止であるが、腹が立たないわけではない。しかるに、野荒しのあとに、三拝九拝の縁談とは虫がよすぎるというものだ。
ところが道三は意外にも軽くうなずいた。
「信長はいくつだ」
「十五です」
「バカヤローの評判が大そう高いな」
「噂ではそうですが、鋭敏豪胆ことのほかの大器のように見うけられます」
「あれぐらい評判のわるい子供は珍しいな。百人が百人ながら大バカヤロウのロクデナシと云ってるな。領内の町人百姓どもの鼻ツマミだそうではないか。なかなかアッパレな奴だ」
「ハア」
「誰一人よく云う者がないとは、小気味がいい。信長に濃姫をくれてやるぞ」
「ハ?」
「濃姫はオレの手の中の珠のような娘だ。それをやる代りに信秀の娘を一人よこせ。ウチの六尺五寸のヨメにする。五日のうちに交換しよう」
「ハ?」
平手は喜びを感じる前に雷にうたれた思いであった。怖る怖る道三の顔を仰いだ。老いてもカミソリのような道三の美顔、なんの感情もなかった。
「濃姫のヒキデモノだ」
道三は呟いた。
両家の娘を交換する。それは
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