たことをしたがる義龍という存在だろう。トドのつまりは、そうらしい。
つまり道三にとっては、義龍という存在が、どうやら心理的に殺すことができない存在なのかも知れない。信長という対立的なものを選んで味方にしたところを見ると、自分でもそんな気がするのであった。何か宿命的なものが感じられた。
そして、義龍を殺すことよりも、義龍に殺されるかも知れないということをより多く考えるようであった。いつでも義龍を殺せるうちから、すでにそうだった。
むろん、義龍に殺されるのが心配で、対立的な信長を味方にしたわけではないのである。しかし、今になって、結果から見ると、まるでその予算を立てて信長を濃姫の聟に定めたようなことになっている。あるいは、そういう秘密の気持があったのに、自分ではそれに気付かなかったのかも知れないと考えたりするのであった。
それはまったくフシギな心だ。なぜなら、今だって義龍を殺すことができないわけではないじゃないか。
「どうも、まったく、目ざわり千万な奴だ。六尺五寸もあって、モッタイぶって、バカで、ライ病だ」
しかし、すべてが、オックウだ。六尺五寸のライ病殿に関する限り、すべてがオックウの一語につきる。そして、ふと気がつくと、
「あの化け者めにオレの寝首をとられるか」
そう考えているのであった。久方の光がしず心なく降るが如くに、そう考えているのであった。
★
その年の秋、三男の喜平次を一色右兵衛大輔とした。これにいずれは後をゆずる腹であった。道三は下の子ほど可愛いのだ。
「喜平次はオレも及ばぬ利口者」
こう云って崇敬したが、誰もその気になってはくれなかった。しかし道三は大いに喜平次を崇敬して満足であった。
そして、十一月二十二日、例年通り山下の館で冬を越すために城を降りた。
義龍は十月十三日から病気が重くなって、臥せっていた。道三が冬ごもりから戻るころには大方死んでいるだろうという話であった。道三もそれを疑わなかった。要するに、そんなものか、と城を降りたのである。
しかるに義龍の病気は仮病であった。道三が山下へ降りたので、道三の兄に当る長井|隼人正《はやとのしょう》が義龍の使者となり、喜平次と孫四郎を迎えにきた。
「義龍が死期がきて、いまわに言いのこすことがあるそうだから」
伯父が使者だから二人も疑わない。そして兄の病室へは
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