千代を訪れることはできなかつた、それも仕方がなかつたのだ。私は例によつて例の通り見知らぬ居酒屋の暖簾をふいとくぐり、酔うては色餓鬼のやうに遊里をうろついて一夜を明した。
 私は酒の酔ひもかりて、こんなことを考へてゐたのだ。
 ――あの太々《ふてぶて》しい親父の奴が、弱つたやうな様子はしても、どうして弱つてゐるものか! 今に東京へ現れてくる。まさかに女がアトリヱに待ちかまえてゐやうとは夢にも思ふことはあるまい。そこであいつがどんなことをやらかすか? こいつは観物だ! そいつを俺の手本にしてゆつくり考へ直してもおそくはないて。

 私は然し三千代に対する私の態度(憐憫の情以外には多くのものを感じないその感情生活を含めることは勿論)をかなりの点まで是認しつづけてゐたのであつた。私の態度を是認するといふよりも、彼女が私に騙されてもいい、愛すふりをしてくれといふ(――本心からさう思ふ女が果してあらうか! けれども我々の現実では多くのものが常にこの程度の妥協をせめての最上としてゐることも否めない)その言葉を或る程度の本音と読んでゐたがために、結局は三千代を騙しつづけてゐる私の感情生活に比較的な正当
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