ネらぬのは、この人の場合に限つて、真実の愛のひときれが私の心に宿つてゐるためであらうか? そのひときれの愛情はもとより私の全てではない。そして私は秋子を欺くことによつて、そのひときれの真実の愛を欺くことが怖ろしいのか? 秋子を愛することによつて、そのひときれの真実の愛を欺くことが怖ろしいのか?
 たそがれ、三名の婦人は立ち去つた。秋子はその日から静浦の別荘で暮すことになつたのだ。
 三名の男は酒をのんだ。
「あの婦人には人に許された最も高度な純潔とその類ひ稀れな純潔の故に課せられた永劫不尽の大苦悩が秘められてゐるのだ」
 二九太は深い感動をもつて秋子に就いて語りはじめた。
「あの人のしひたげられ、ふみつけられた精神史の呻きにも似た時々の痴呆のやうな表情を見たか! あの弱々しい臆病な眼差しをみたか! 人殺しと呼ばれた時の蒼ざめきつた無表情の顔は決して宗教の救ひ得ない、然し最も荘厳なる苦悶の像にほかならなかつたよ。あの人は疲れきつて倒れてしまつた! あのくひしばつた口のせつなさ! その唇のかすかなかすかな痙攣を君達は見たか! あれは全て最も高潔な、いぢらしい悩める魂の姿なのだ! 僕はあのい
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