フ時のことであつた。この部屋までどうして歩いてくることができたらうと思はれたほど蒼ざめて、唇には血の気が失せ、私達に一座して単に身体を支えてゐることだけですら異常な苦痛と闘ひつづけてゐることが分つた。私達は無理強ひに暫く横臥することをすすめたが、勝気な秋子が結局我々の言葉の通り用意した布団の上に休息することになつたほど疲労しきつてゐたのである。秋子は眼を閉ぢて横臥した。その口は苦しげにひきしめられ、蒼ざめた額に汗の粒が浮きだしてゐた。私は秋子の閉ぢられた目蓋の奥に、暗く濁つたその絶望の眼差しを歴々と認めることができるやうに思ひつづけた。
 ――いぢめつけられた可憐な女! 弱々しいすべての力を寄せあつめて進もうとしては叩きつけられる女! 様々の闘ひがあるうちで、この人の敗北の精神史ほどいぢらしい悲惨な葛藤も少ないやうな思ひがする。私達はドン・キホーテの悲劇からどうしても逃れることができないのか! 私はその悲劇を克服しやうと努めてゐるのだ。さういふ私の一生が再び愚かにもそれ自ら同じ悲劇の相をくりかへすであらう皮肉なことにならうとも、私はその悲劇を克服すべく努めつづけずにはゐられない。その私
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