からで、何か、万人に適した規則が有って恋愛を割りきることができるなら、小説などは書く要もなく、また、小説の存する意味もないのである。
 しかし、恋愛には規則はないとはいうものの、実は、ある種の規則がある。それは常識というものだ。または、因習というものである。この規則によって心のみたされず、その偽りに服しきれない魂が、いわば小説を生む魂でもあるのだから、小説の精神は常に現世に反逆的なものであり、よりよきなにかを探しているものなのである。しかし、それは作家の側からのいい分であり、常識の側からいえば、文学は常に良俗に反するものだ、ということになる。
 恋愛は人間永遠の問題だ。人間ある限り、その人生の恐らく最も主要なるものが恋愛なのだろうと私は思う。人間永遠の未来に対して、私が今ここに、恋愛の真相などを語りうるものでもなく、またわれわれが、正しき恋などというものを未来に賭けて断じうるはずもないのである。
 ただ、われわれは、めいめいが、めいめいの人生を、せい一ぱいに生きること、それをもって自らだけの真実を悲しく誇り、いたわらねばならないだけだ。
 問題は、ただ一つ、みずからの真実とは何か、とい
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