お代り」
「オヤ。なかなか、やるな。オレは行々寺の海坊主らわ。こんげの火消しのアンニャと違ごて、オレがくらすけると熊の頭の骨がダメになるがんだが、オレれも坊主のうちらて。ンナの頭の骨をあくまでダメにしてとは思わねが、どうら。ンナ、やめねか」
「アッハッハ。江戸へ連れて行って見世物にかけたいような大入道が現れやがった。ここで退治ちゃア、もッたいねえや。サア、おいで」
「この野郎」
大入道が拳をふるって殴りかかる。ボクシングで御承知の通り、スイングというものはめッたに極まるものではない。大入道の拳をかわすぐらいは、鼻介にはなんでもない。散々空をうたせると、さらばと大入道、両手をひろげて、
「この野郎めが」
と躍りかかる。その時チョイと脾腹をつくと、ゲゲッとけたたましい一声を発して、大入道はズシンとひッくりかえってノビてしまった。
「お次ぎの番だよ」
「オヤ。ンナはなかなかヤワラの手が上手のようらて。オレは真庭念流の剣術らが、ヤワラてがんは日本一の名人れも剣にかかればなンにも役に立たねもんだが、ンナはそれれも承知らか。むかし佐々木岸柳という野郎は宮本武蔵という野郎に木刀れたッた一つシワギ
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