何を出したって何にもならねえよ。つまらねえことをしやがる。こッちはベロをだしてやるから、そう思え」
ピュッと釘を投げる。急所へグサリ。客がそッちを見ているうちに、どうヒモをひいたのか、戸がスルスルとあく。
「戸があいたぜ。帰んな。帰んな」
と、追いだしてしまう。
いかに礼儀知らずの岡ッ引とは云え、重ね重ね無礼千万。これ以上放ッておいては、一人の鼻介に十里四方が征服されたようなもの。そこでアンニャの有志が集合して、
「あの野郎をこのままにしておいては、この村に男が居ねと云われても仕方があるめ。こう言われては、末代までの大恥をかかねばならねもんだ」
「そうらとも。どうしても、いっぺん、くらすけてやらねばならねな」
ということになった。
★
いっぺん、くらすけることになったが、実行の方法がむずかしい。大ボラをふくだけあって多少は腕に覚えがあろうし、江戸で十何年もいた奴はどういう狡智悪計にたけているか知れない。
近郷近在のアンニャのうちで、衆評一致した豪の者は、草相撲の横綱鬼光、これは強い。六尺三寸、三十八貫、江戸の大関でもあの野郎の鉄砲一発くわせたら危ねえ
前へ
次へ
全26ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング