を集中し、それを持続することが不可能になった。
私が捨身になって三千枚ほどの長編小説に没頭しようと覚悟したのも、一つは、この肉体の悪条件を克服したい、してみせる、という意志によってゞあった。
この努力がムリであったらしい。まだしも三百枚、五百枚というならともかく、三千枚ほどの作品が一朝一夕に書けるものではない。すくなくとも、肉体的に、一そう消耗せざるを得なくなるのは当然であった。
しかし、ボクはガムシャラに仕事と闘った。サンマンとなり、衰えはてゝ行く注意力を集中するために、覚せい剤を多量に用いて、ムリに机に向い続けなければならなかった。すると、今度は、ねむるためには、もう酒だけではダメになり、催眠薬を用いざるを得なかった。ボクの用いた催眠薬は、定量の十倍ぐらいであった。そうしないと、もう、ねむれなかったのである。
一切の面会をことわったが注意力は衰え、肉体的条件は悪化するばかりであった。それを踏越して仕事を続けるためにボクの用いた方法は旅行であった。熱海へは、よく行ったが、行きつけの旅館はボクが静かに仕事ができるようにと隣りの別荘へ泊めてくれたが、そこは松井石根大将の別荘であり
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