では、今日も、明日も、明後日も。早く」
 もう一度だけ蛇とりに行ってくると、その日はもうたそがれてしまった。ヒメの笑顔には無念そうな翳がさした。吊るされた蛇と、吊るされていない空間とを、充ち足りたように、また無念げに、ヒメの笑顔はしばし高楼の天井を見上げて動かなかった。
「明日は朝早くから出かけてよ。何べんもね。そして、ドッサリとってちょうだい」
 ヒメは心残りげに、たそがれの村を見下した。そして、オレに言った。
「ほら。お婆さんの死体を片づけに、ホコラの前に人が集っているわ。あんなに、たくさんの人が」
 ヒメの笑顔はかがやきを増した。
「ホーソーの時は、いつもせいぜい二三人の人がションボリ死体を運んでいたのに、今度は人々がまだ生き生きとしているのね。私の目に見える村の人々がみんなキリキリ舞いをして死んで欲しいわ。その次には私の目に見えない人たちも。畑の人も、野の人も、山の人も、森の人も、家の中の人も、みんな死んで欲しいわ」
 オレは冷水をあびせかけられたように、すくんで動けなくなってしまった。ヒメの声はすきとおるように静かで無邪気であったから、尚のこと、この上もなく怖ろしいものに思わ
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