の返答があった。
「ヒメがそれに同意なら、願ってもないことだ。ヒメよ。異存はないか」
それに答えたヒメの言葉もアッサリと、これまた意外千万であった。
「私が耳男にそれを頼むつもりでしたの。耳男が望むなら申分ございません」
「それは、よかった」
長者は大そう喜んで思わず大声で叫んだが、オレに向って、やさしく云った。
「耳男よ。顔をあげよ。三年の間、御苦労だった。お前のミロクは皮肉の作だが、彫りの気魄、凡手の作ではない。ことのほかヒメが気に入ったようだから、それだけでオレは満足のほかにつけ加える言葉はない。よく、やってくれた」
長者とヒメはオレに数々のヒキデモノをくれた。そのとき、長者がつけ加えて、言った。
「ヒメの気に入った像を造った者にはエナコを与えると約束したが、エナコは死んでしまったから、この約束だけは果してやれなくなったのが残念だ」
すると、それをひきとって、ヒメが言った。
「エナコは耳男の耳を斬り落した懐剣でノドをついて死んでいたのよ。血にそまったエナコの着物は耳男がいま下着にして身につけているのがそれよ。身代りに着せてあげるために、男物に仕立て直しておいたのです」
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