ワケが分ってきたように思われた。そこでムラムラと怒りがこみあげた。バカな女め。キサマ欲しさに仕事をするオレと思うか。連れて帰れと云われても、肩に落ちた毛虫のように手で払って捨てて行くだけのことだ。こう考えたから、オレの心は落附いた。
「耳男をつれて参りました」
アナマロが室内に向って大声で叫んだ。するとスダレの向うに気配があって、着席した長者が云った。
「アナマロはあるか」
「これにおります」
「耳男に沙汰を申し伝えよ」
「かしこまりました」
アナマロはオレを睨みつけて、次のように申し渡した。
「当家の女奴隷が耳男の片耳をそぎ落したときこえては、ヒダのタクミ一同にも、ヒダの国人一同にも申訳が立たない。よってエナコを死罪に処するが、耳男が仇をうけた当人だから、耳男の斧で首を打たせる。耳男、うて」
オレはこれをきいて、エナコがオレを仇のように睨むのは道理と思った。この疑いがはれてしまえば、あとは気にかかるものもない。オレは云ってやった。
「御親切は痛みいるが、それには及びますまい」
「うてぬか」
オレはスックと立ってみせた。斧をとってズカズカと進み、エナコの直前で一睨み、凄みをきか
前へ
次へ
全58ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング