、仕事場をのぞくことができないように工夫しなければならないのだ。オレの仕事はできあがるまで秘密にしなければならなかった。
「ときに馬耳よ。長者とヒメがお召しであるから、斧を持って、おれについてくるがよい」
 アナマロがこう云った。
「斧だけでいいんですか」
「ウン」
「庭木でも伐ろと仰有《おっしゃ》るのかね。斧を使うのもタクミの仕事のうちではあるが、木地屋とタクミは違うものだ。木を叩ッ切るだけなら、他に適役があらア。つまらねえことでオレの気を散らさねえように願いますよ」
 ブツブツ云いながら、手に斧をとってくると、アナマロは妙な目附で上下にオレを見定めたあとで、
「まア、坐れ」
 彼はこう云って、まず自分から材木の切れッ端に腰をおろした。オレも差向いに腰をおろした。
「馬耳よ。よく聞け。お主《ヌシ》が青ガサやチイサ釜とあくまで腕くらべをしたい気持は殊勝であるが、こんなウチで仕事をしたいとは思うまい」
「どういうわけで!」
「フム。よく考えてみよ。お主、耳をそがれて、痛かったろう」
「耳の孔にくらべると、耳の笠はよけい物と見えて、血どめに毒ダミの葉のきざんだ奴を松ヤニにまぜて塗りたくッて
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