加十は生きてる時から左手のヒジから下がなかったのだと考えてみることができましょう。犯人は加十を殺す目的を果したが、その死体に左のヒジから下がないと分れば、顔を斬りきざんで人相をごまかしても身許がさとられやすい。そこでそれをごまかす方法を施すとすれば、全身バラバラに切断して、その一部分がついに現れてこなくともフシギではないと思わせること。即ち元々なかった部分が現れないのは当然ですが、それが存在しなかったせいではなくて、他の理由によってその姿を地上から失うことがフシギではないと思わせる手段を施すに限るでしょう。このバラバラ作業の状況から判断すると、一応この想定を立てることは許されてよかろうと思われます。これほどコマメにバラバラにしておきながら、二ツまとめて一包みにしているなぞは甚だ奇妙で、要するにコマメにバラバラにしたのは小さくして別々に運んで棄てる便宜のためでないことは明らかですね。そしてただ細かくバラバラに切断するということに目的ありと仮定することが可能で、そのバラバラの目的としては、つまり肉体の一部分が失われて現れてこなくともフシギがられぬ状況をつくることです。死体をバラバラにする理
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