が来おるとオレの酒の量を減らしおることになるだけだから、ちょうど本山へおもむく用があったを幸い、鬼の子を連れて行って京都の寺へ捨ててきてやった」
 加十はその京都の寺に足かけ二年ほど辛抱したが、ぬけだして遊ぶ味を覚え、やがて寺をでてヤクザの群にはいってしまった。その後の生死も不明だということである。
「奥さんがなくなってから鬼の才川さんも心境が変ったそうですが……」
「そうかいな。年に一度オレをよんでお布施をくれてタケノコメシをおごってくれるから、心境が変っているのかも知れんが、オレは昔も今も鬼とツキアイがないから知らんな。オレがつきあっているのはタケノコメシだけだ」
「その珍しいタケノコメシの法事にはどんな顔ぶれが集りますのでしょうか」
「左様、タケノコメシの顔ぶれは六年間変りがない。平作の弟の馬肉屋の又吉と妹お玉。お玉の亭主女郎屋の銀八。死んだ女房杉代の兄で仲見世の根木屋長助。その妹のお直とお安。そろそろ棺桶に一足をかけはじめた年かっこうの者ばかりだが、六年間に一人も死んだ者がない。あとの顔ぶれはずッと若くなって平作の次男坊の石松。長男勘当でこれが跡目だな。長女伸子とその亭主の三百
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