活である。小花は腹にすえかねて、
「なんて悪党なのよ、あんた方は。昨日まで私をだまして何食わぬ顔はどういう意味? 私は他人だというわけなのね」
「そうじゃないよ。オレとハマがこうなったのはだいたいのところ昨日からで……」
久五郎はてれたのかモグモグと言葉をにごした。
「ウソですよ。私だって子供じゃないわ。昨日からの仲でないぐらいは、昨晩の様子で分りますよ」
「それがその以心伝心なんだな。オレが思い、アレが思い、たがいにそれがこゝに移り住んでピッタリ分ったから年来の仲のように打ちとけたのだが」
と久五郎は赤くなって口ごもった。ハマは黙々とニヤついて、悠々たるもの。やがて久五郎はわびしく苦笑して、
「しかし、お前もオレに隠して乞食男爵の倅とできていたじゃないか」
小花はグッと胸にこたえたらしいが、
「兄さんは知っていたの?」
「イヤ。先日、お前と周信が奥の一室で言い争っているのを偶然きいてしまったのだ」
小花はまッかになった。
「こんなふうになるらしい予感もあったし、羞しくッて隠していたのです。あの人にだまされたのは私ばかりじゃないわ。モッと身分の高い人も、その他、大勢いるのよ」
「誰だい? 身分の高い人とは?」
「云っちゃ、いけなくッてよ。あの人がウッカリ私に威張って教えただけの秘事だもの。男ッて、そんなことまで偉そうに言ってきかせたがるのね。でも、羞しいわね。兄さんに聞かれたなんて」
「ナニ、ハマ子もきいていたぜ」
「じゃア、あなた方は隣室でアイビキしていたのね」
「あの最中にアイビキなんぞできるものか。オレがふと気がついたら、猫のように音もなく、ハマ子が傍に立っていたのだ。まア、以心伝心はそのせいかも知れないな」
と久五郎は赤くなって口ごもった。バカのように満悦の態がイヤらしかったから、小花は癪にさわって庭へとびだした。
しかし、この侘び住居も安住の地ではないらしかった。どうやら新しい生活になれそめたころ、乞食男爵の三人組がそろって姿を現して、
「隠し持った品々オタカラの類をそろそろ取りだしたころではないかい。ちょッと探させてもらうから一室へ集まってもらうぜ。先の書附にも慰藉料の一部分として五万円とこれこれの品を受けとったとチャンと書いてある通り、残りの分をもらう権利があるのだから仕方がない。この家屋敷をそッくり貰うこともできらアな」
半日がかりで邸
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