と心得て、この日は朝から新しいネグラを探しにでかけたそうだ。残ったのは女どもだけ。その中でシッカリした気性の成子は次の看護の口さがしに、これも朝から出かけていた。新十郎は現場にいた警官一同に退席してもらい、一同を隣りの部屋へあつめ、自分だけ陳列室へはいってカギをかけてしまった。三十分ほどすぎた。新十郎は笑いながら出てきた。そしてまたカギをかけた。
「お待たせしました。仕掛けは五分とかからなかったのですが、一定の時刻があるので、ウトウトしてヒマをつぶしてきました。私がそうだから、皆さんは尚退屈なさったでしょう。さて、部屋のカギは事件の当日以来一ツしかなくなって、それは目下私のポケットにあるのですから、カギをかけて密封した陳列室はいかに大なりといえども人間の忍びこむ方法はありません。さて、無人の陳列室に何が起るか、二三分御辛抱ねがいます」
 新十郎は葉巻をとりだして火をつけた。ウミの匂いのこもっている人殺しの部屋の匂いにヘキエキしたのか、珍しく葉巻なぞというものをポケットへ忍ばせてきたらしい。もっとも彼が出がけまでいじっていたオルゴールの中の品物かも知れない。
「シッ!」
 新十郎が一同を制した。一同は驚いて静かになった。すると無人の陳列室にオルゴールが鳴っているのがきこえてきた。一回、二回とオルゴールは同じ曲をくりかえしている。
 新十郎は云った。
「皆さんは事件当日十一時にオルゴールが鳴ったことを思いだして下さい。そのとき、ここにはナミ子がいました。ナミ子は主人がよんでると思ってドアをあけようとしたが、カギが紛失していました。カギが紛失しているわけですよ。つまり、カギを盗んだ犯人は、陳列室へ忍びこむために盗んだのではなくて、十一時にオルゴールが鳴ってもナミ子が中へはいれぬように盗んでおいたのです。ナミ子がはいると、犯人には困ったことが起ります。なぜなら、オルゴールを鳴らしているのは主人ではなかったのです。主人はそのときすでに殺されていました。ではオルゴールを誰が鳴らしているかというと、それは犯人が鳴らしています。しかし、犯人はこの部屋の中にはおりません。居らなくともオルゴールの鳴る仕掛けが施してあったのです。そのとき犯人はよその部屋にみんなに顔を見せていました。そしてオルゴールが鳴り、ナミ子がカギがなくてウロウロしていることをチャンと心得ていました。充分に人に顔を見
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