った。
オカネがお志乃を選んだのは、第一に片目しかないというのが気に入ったのである。片メクラと云う言葉もあるように、どうやら片目でもメクラのうち。アンマに仕立てることができる。アンマの稼ぎができないような養女はこまるが、全然メクラでもこまる。なぜなら、せっかく養女にもらうのだから、女中の代役がつとまらなければ意味をなさん。それには片目が見えなくては困るという次第で、見えない目ではアンマをやり、見える目では女中をやる。これがアンマの養女というものだ。
お志乃は美人ではないが、まア、醜いという顔でもなかった。これもオカネの気に入った。女アンマの稼ぎは裏表と云って、裏の稼ぎもあるし、それはアンマの養女にとっても同じことだ。
オカネの狙いたがわず、お志乃は変に色ッぽい女に育ちあがったから、オカネは旨を含めて、お客に手を握られたのを報告させ、その中からお金持の爺さんを選んで、特にサービスを差許す。そういう旦那が三人あった。
銀一とお志乃は車にのって稼ぎにでる。車夫を抱えると月給がいるから、近所の車宿の太七という老車夫と予約し、二人のアンマ代には車代も含まれているという仕組みになっているのである。
もっとも銀一が妾宅へ通うのも太七の車であるから、その車代もちゃんとお客が払うような復難な車代になっている。
弁内は馬の鼻息をたてて仁助の肩をもみながら、例の問わず語り。
「師匠を悪く云いたかアないが、ウチの師匠夫婦ぐらいケチンボーは珍しいね。アンマと芸者屋は同じことで、女アンマと芸者は表むき主人の養女となっているが、ウチのお志乃さんは本当に後とり娘の養女なんだよ。その養女に三人も旦那をとらせて、まだまだ七人でも十五人でも旦那をとらせるコンタンさね。オカネの化け物婆アときたしにゃア、両手の熊手でカッこむことしか知りやしねえ。両手どころか両の足まで熊手さね。熊足かな」
仁助の目がギラリと光ったとは知る由もないメクラの弁内、馬の鼻息を物ともせずに語りつづける。修練とは云いながら、鼻と口とを同時に器用に使い分けるもの。
「師匠にゃア妾もあるし、私たちには食わせないが、妾宅なんぞではずいぶんうまい物も食ってるらしいが、化け物婆アときたしにゃア私たちに隠してドンブリ一ツ取りよせて食ったこともないてえケチンボー婆アさ。だから私たちのオカズだって知れてるじゃアありませんか。力稼業の身体がもたないよ。外でチョイ/\高い物を食わなきゃアならない。そのくせ一文も金を貸しちゃアくれないね」
「ヘソクリをためているのか」
「ヘソクリどころじゃないよ。師匠に店をもたせて以来、モウケは二人で折半。アンマの株を買ってやったのが持ちだしだが、その何百倍とモウケたくせに、今でもそれを恩にきせて大威張りさ」
そのとき、にわかに起った半鐘の音。スリバンだ。
「近いらしいね」
諸方の家の戸や窓があいて、路上や二階で人々の叫び交わす声。弁内は慌てずあせらず、もむ手を休ませないから、
「火は近いようだが、お前のウチは遠いのかい」
「いえ、遠かないね」
「落ちついてやがるな」
「火事にアンマが慌てたって仕様がないよ」
「なるほど。それにしても、人情で慌てそうなものじゃないか」
「焼ける物を持たない奴は慌てないよ。チョイと慌てる身分になりたいやね」
そこへこの商人宿の女中がかけこんで、
「弁内さん。火事はアンタのウチの近所らしいよ」
「そうかい。それなら、ここのウチでゆっくり一服しなきゃアいけない。うっかり目アキに突き当られちゃアかなわないからな」
「オレが見てきてやろう」
仁助は立上り、女中からアンマ宿の所在をたしかめて、火事見物にでかけた。
★
幸い風のない晩だから三四軒焼きこがして食いとめた。アンマ宿は通りを一ツ距てていたので、近火だったが、被害はない。
弁内はヤジ馬や火消が退散して、深夜の静けさに戻るまで油をうって帰ってくると、オカネが銀一とお志乃に当りちらしている最中だった。
「ここんちじゃア人間の頭は六ツだが、目の玉は一ツ半しかないんだよ。その一ツはお志乃の顔についてるんだ。家財道具を運びだすにも、メクラどもの世話をやくにも、その目玉がタヨリじゃないか。火事が消えてヤジ馬も居なくなったころになって、ようやくノコノコ現れてくる奴があるかい。そッちのゲジゲジの野郎も唐変木じゃないか。ここはお前のウチだろう。本宅の四五軒先がボウボウもえてるてえのに、妾宅に火の消えるのをボンヤリ待ってるバカがあるかえ。テメエはメクラかも知れないが、車夫やトビの五人十人くりこませるぐらいの才覚がつかねえかよ。唐変木のゲジゲジめ!」
なるほど、オカネ婆アの怒るのも一理はある。しかし、見習の稲吉はせせら笑って、
「うるせえ化け物婆アだなア。師匠とお志乃さんが戻
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