「ごらんの通り、ヌケ道は空間の通路じゃなくて、火消装束ですよ。これぐらい区別のつかない制服も珍しい。第一、この頭巾は、目の上にもフタがあって、顔についた小さな唯一の窓にすらもフタをとじて、顔も身体もスッポリと包み隠してしまう。この装束にちょッとでも露出の可能性のあるところは、両手の指先と、モモヒキとタビの合せ目に当る足クビだけですよ」
 新十郎は意味ありげにヤマ甚の目をじッと見つめたが、
「さて、あの日、山キの主人は棺桶が安置されると、棺桶の中から立上って火消一同が彼をかこんで木やりをうたっているとき、用意の火消装束に着代え、脱いだ法衣だけ棺桶に入れて元通りフタをとじ、火消人足にまじって外へでてしまったのです。ですからコマ五郎はじめ輩下の全員は、棺桶の中はカラだということをチャンと目で見て知っていたのです。おまけに、その建物の扉に錠をおろせば完全に人の出入ができないことも知っていました。コマ五郎親分は扉に錠をおろしたカドによって喜兵衛さんの出口をふさいだと見られて犯人になりましたが、事実はアベコベに入口をふさいだのです。なぜなら中はカラだから出る人はある筈がなく、したがって、中へはいる
前へ 次へ
全69ページ中56ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング