った。
「かほどの大金を一時に握るほどの大胆な不正をはたらいているのに、長屋に毛の生えたような家作に住んで調度品に金目の物もなく、ヤモメ暮しのくせに浮いた話もなく、御近所の目にたつような派手なことが一ツもないというのは妙だ。どこかに豪奢な二重生活のアナがなければ話が合わないではないか」
 当然この疑問が起って人々が調べてみると、予想たがわず彼の二重生活が現れてきた。女中のお加久という老婆の妹の娘お染というのが彼の二号で、すごいほど豪奢な別宅を構えていたことが分った。お染の伯母のお加久が重二郎の本宅の女中となって妾宅とレンラクし、サイハイをふるっているのだから、シッポがでなかったのはムリもない。
 お染お加久らを訊問して重二郎の行方を追求したが、
「旦那の行方を知りたいのは私の方ですよ。あの物静かな旦那が悪いことなんぞ出来るものですか。お店のお金をくすねたなんて、人ぎきのわるい。山キの聟だもの五万十万のお小遣いを持ちだすのは長屋のガキが三文持ちだすようなものですよ。私のウチじゃアかけがえのない旦那だから、早く旦那を返しておくれ」
 そう云うのもムリはない。つもりつもって、どれだけの大金を
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