て走られたと承りましたが、コマ五郎があくまで止めだてしたことについては、どのようにお考えでしょうか」
「そんなことが分るかよ。あのズクニューめが。ワシを軽々と抱えて降りたバカ力はたいしたものだが、力持ちに利口がいたタメシはないものだ。アッハッハ」
 何をきいても、この調子であった。
 土佐八とその子波三郎を訪問したときはもッとひどい。
「コマ五郎親分が犯人だとは思われないが、どうして黙って手を後にまわしなすッたんでしょう」
 と新十郎がきいても、
「知らないねえ」
 まるでよその人の話をしているようだった。ただ反応があったのは、ダビ所の建築の仕掛をきいたときで、
「ダビ所の抜け道はどこに、どのように、仕掛けられていたのでしょうか」
 ときくと、土佐八と波三郎は心底から呆れ顔に新十郎を見つめて親子は目を見合わせ、
「抜け道なんぞ、あるかい。抜け道どころか、蟻の這いでる隙もないように念を入れて造ったものだ」
「蟻の這いでる隙もないように。……するとなるべく煙の吹きこむ隙がないように、というためにですね」
「そんなこたア知らないが、床も羽目も内と外から二重に厚板を合わせてピッタリと蟻の出入り
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