帳の方にも未来の分を書いておいたぜ、と大笑いでした。葬式のマネゴトをやるについては、これも浮世の仕来《しきたり》だから受けて置けと気軽な様子でお手渡しになったのです」
 なんとなく深い意味があるような、ないような、曰くありそうな系図であった。とにかく老禅師に問いただすと、製作のイキサツは分ることだ。新十郎は一礼して系図を返し、
「よく分りました。ところで、そのとき御尊父は寮の車で市川の別荘へ立ち去られたそうですが、ここへおいでの時にも寮の車で?」
「いえ、御本宅のお車です。ですが、そのお車は何かの用でどこやらへ遣わされたようでした。なにぶん葬式の前日ですから、何かと諸方と往復の御用やら何やらがありましたようです」
 新十郎はさッきから保太郎の手のホータイに気をつけていたが、
「どうやら、あなたも重二郎さん同様、今も武ばったことがお好きのようで。モーロー車夫と組打ちなさったのではないでしょうな」
 と笑いながち冗談を云った。両手の手首から掌にかけて同じようにホータイしている。保太郎もくすぐったそうに笑顔で答えて、
「つまらぬものが目にとまりましたな。どうも恐縮なことで……」
 と、ごまか
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