がよかったのかも知れません。そして予定通りの開店に成功しましたが、その目的は何であったかと云えば、シノブ夫人がロッテナム美人術の大愛好者になることが不自然でないこと、その結果としてあらゆる知人をロッテナム美人術に誘い、遂には良人の大伴侯爵をもひそかにロッテナム美人館へ誘いだす目的のためにです。これが本当の目的でした。シノブ夫人は唯一の見物人たる良人の眼前で、美人術の実演をうけるモデル女として寝台の上に横たわりましたが、その部屋は他の貴婦人たちが美人術をうけた階下の手術室ではなくて、シノブ夫人がひそかに二階に借りていた、自分の寝室に於てです。そして、シノブ夫人が横たわった手術用の寝台は、階下の物とはちがって、もっと型が大きかったし、その上、全部が板によって出来ていました。即ちそれは元来が美人術用の物ではなくて、実際は奇術用のもの、底が三重になっているものでした。その寝台の板の下には、すでに二人の侍女たちがひそんでいたのです。皆さんが西洋奇術をごらんになると、稀に同類のものが目にとまる筈ですが、奇術とは申しても、ここに必要なのは主として道具の構造だけで、演技の熟練に要する時間は多くを必要と
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